茶の湯炭ができるまで

茶道の炭である椚炭(くぬぎすみ)は黒炭といい、炭化が終わると窯を密封して酸素を断ち、消火します。
日本で昔から使われてきた黒炭には、なら炭とくぬぎ炭がありますが、茶席でいぶらないことはもちろん、においがしたり、爆ぜたりずることもなく、姿が美しいことも望ましい、茶の湯炭であるくぬぎ炭には緻密な技術と経験を要します。

原木となるクヌギについて

日本で昔から使われてきた黒炭の材料には、主にナラとクヌギがあります。ともに暖房に使う日常的な燃料でありましたが、クヌギ炭は茶の湯で特別に改良されてきました。

燃えゆくさまに風情を感じ、姿も美しいことが望ましい。この条件を満たす材料がクヌギなのです。 茶の湯の炭づくりは、冬場に限られます。それは、伐採したくぬぎの程よい乾燥からです。

伐採後のくぬぎ

山の下狩りをしないと、良質な茶の湯炭の原木にはなりません。
くぬぎは根は残した状態で伐採すると、ひこばえが出、てこれが成長して数年たつと一株から数本の炭材が採れます。

炭焼き用に準備されたクヌギ材

7~8年もののクヌギで冬から春にかけて伐る。
ゆるやかな南傾斜の、肥えた土地に生育した素性の良い樹が必要とされる。椚炭を焼く窯は小さめなものが多い。窯にも一つ一つ性格がある。

原木を窯に詰める

茶の湯の炭の製造法は〈窯内消化法〉という方法を用います。
最初に前回に焼いた窯の中の炭をすべて出し、まだ熱の残る窯の中に原木を運び入れます。
この残り熱が窯の中の温度を潤滑に上げる重要な役割を果たします。

窯の中にくぬぎ原木を詰める

炭材は少しずつ 窯へ投げ入れていく。木が痛まないよう、慎重に滑らすようにして入れていく。
窯の入り口は小さく、中から外を見ると小さな口から入る光が見えます。
それを背後に受けて作業する。
低い姿勢での大変な作業になります。 炭材が地面に触れるとその部分は炭化が不充分になるので、はじめ敷木とよばれるナラなどを敷く。

クヌギ原木を並べていく

背の低い窯の中での作業は非常に大変です。
敷木を敷き終わると、その上にクヌギの炭材を1本1本立てて詰めてゆく。
窯の手前側や上部は焼きムラが多く、出来が悪くなるために茶の湯炭用は中央より後部に並べられる。

炭を焼く

黒炭は一度火を入れてから5日間ほどかけて600℃ぐらいで焼き、窯を密閉して酸素を遮断し消化する。消化にも三昼夜。わずかな空気孔から見える内部の炎の色と、煙の色とにおいの変化だけを読み取って、炭を焼きます。
クヌギ炭の断面の美しさも、硬すぎず軟らかすぎずにするのも窯の温度の上げ方と保ち方にかかっているのです。火をとめる時機も毎回異なります。日中とは限らず夜中か、明け方になるかその時を逃すことなく、全て職人の腕にかかります。

口焚き・窯に火を入れる

炭材に火がまわって単価が始まるまで時折、焚き木を入れて温度を調整する。
炭の断面の割れ目をきれいにするには、この温度上げが大切。

煙突と窯の入り口

一度火を入れたらほぼ5日間、昼夜を問わず煙を見張る。煙は色によってにおいも温度も違ってきます。窯を密封すると煙のにおいと色の変化だけを読み取って炭を焼く。完全に煙道をふさぎ、消火し、中に入れる温度になるまで窯を冷やします。同じように窯に詰めてもタイミングは気候やその時の材で毎回違います。

できあがった炭を出す

まだ窯も炭も温かい中、出し始めます。 窯の手前は、熱が上がらず質の良い炭は少ない。
良質の炭は樹皮がぴったりと密着して中央からきれいに放射状に割れ目が入っています。
この断面が菊の花に似ているため、茶の湯炭は、別名「菊炭」ともいわれています。

窯口を開け、窯の中に入る

原木にくらべて炭化した炭は、長さにして約20%縮み、目方は原木のおよそ4分の1になっている。
蒸し風呂のような窯の中で、まず、上木の柴を取り除く。これは茶の湯炭にはならない。
約50束分の原木を入れても、30束分位しか茶の湯炭となる良質の炭はとれない。

丁寧に運び出す

くぬぎ炭を1本ずつとってコモの上に積み、まとめてくるんで運び出す。
大型のなら炭の窯はコンベアなどで外に出すが、くぬぎ炭の場合はそうはいかない。 窯の中はまだ熱く、灰がもうもうと舞う。